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【コラム】コノシロが釣れたらうれしくなる酢締め

コノシロという魚は成長するごとに名前が変わる出世魚なのだが、市場価値はその体長と反比例して下がっていくという気の毒な存在である。新子のこはだ5枚づけの握り、だなんて高級品はなかなか口に入らないが、釣り師の特権としては比較的簡単にコノシロを入手することができる。

ある和食料理店。愛知豊浜港直送など、地物の魚を取り扱っているとうたっているところに、釣り師にとってそそられる本日のおすすめが並ぶ。「クロダイの刺身」「シャコの塩ゆで」「マダカの蒸し物」…どれも美味だった。しかし、「コノシロの塩焼き」、これはいただけなかった。明らかに泥臭かった。ああ、大きくなったら価値がないというのは、こういうことか。そう思った。果たして個体差の問題か、生息地の環境の問題か、はたまた処置の技術の問題か。その一品については皆目見当もつかないが、庶民的な寿司屋でこはだの握りがあれば(予算と相談しつつ)好んで食べる私にとっては泥臭いコノシロの存在はなかなか強烈な体験だった。

--ある初夏の若狭本郷。セルリアンブルーの空、濃緑の若狭大島の山々。深紅の青戸大橋。エメラルドグリーンの海。ここはかかり釣り発祥の地ともいわれる名所「はやし渡船」の筏の上。ぬかダンゴを放り込む。わずかにヌカが拡散しながらダンゴは海中に一気に吸い込まれていく。チヌ、釣れてくれよ、の思いで海面を眺める。

数投すると、どこからともなく明らかにアジより大きい魚体の群れがそのヌカにおびき寄せられ、水深2メートルほどの棚をぐるぐると泳ぐ。小さい子供なら狂喜乱舞するだろう。実は自分もいい年して、気持ちは同じ。魚影の濃さ、自然の豊かさにうれしくなる。この銀色の魚影こそが、コノシロである。

コノシロといえば、チヌ釣り的に言えば外道である。ボラやアジほど「厄介度」は高くないが、リリースしてしまう人が多いのではないだろうか。いわく、泥臭い、青臭い、小骨が多い、、、。きっとそういうものだろうと思った私はさほど期待せずに、それでも魚は色々食べてみたいと思う性分なので持ち帰ることにした。

酢締めを作ろう

コノシロのさばきかたは比較的簡単だ。鱗は大きいがはがれやすい。頭を切り落とし、腹の下側をカットして、内臓を取り出し、よく洗う。そこから三枚おろしに入るが、小骨はまともな包丁なら問題なく切断できるし、適度に身が分厚く皮も硬いので、身が崩れにくく、さらに細長い魚体故に簡単な部類。背骨もごつごつしていないので、きれいに分離できるはずだ。一般的な出刃包丁で一発でとれる。

血が付いた部分があればキッチンペーパーでふきとり、腹骨をすいて、皮付きのままタッパーに入れ、雪が降ったくらいの感じで白くざらざら残る程度の塩をする。これで冷蔵庫に数時間寝かせ、ドリップを引き出して身を締めていく。

その後ドリップを捨て、身を軽く水洗いし塩分をある程度抜く。キッチンペーパーで水気をとり、今度は昆布酢に漬け込む。最近販売されている「ツンとしないお酢」であれば、漬け込みっぱなしでよい。細切りにしたニンジンやオニオンスライス、セロリなどを一緒に入れてマリネにしてもおいしいと思う。

小骨は酢で柔らかくなるが、5ミリ前後の厚みに切りつけるのがおすすめ。骨切りができるなら、漬ける前に3~4ミリピッチくらいで刃を入れて、切り付けはもう少し分厚くするとよいかも。

あくまで光物なので好き嫌いは分かれるが、夏場の酒のあてに最高だ。一回しっかり塩で絞めることで(おそらく)泥臭さや生臭さも抜け、代わりに浸透した酢が身の旨味を引き立てる。身そのものから出てくる旨味もさることながら、皮と皮下脂肪の旨味がたまらなくパンチがある。少々中骨の存在を感じるが、のどに引っかかるようなものでもないし皮目を噛んでいるうちに気にならなくなる。

とにかく、よく噛んで食べたい。噛むほど、旨味がじわじわと出てきて、酸味とともに舌の両サイドを刺激する。レモンやスダチを少し垂らすのもいいかもしれない。スーパーでもまれにコノシロを見かけるが、やはり値段は相当安い。骨切して塩焼きか唐揚げ、というのが通例のようだ。しかし自分で釣ってきた新鮮なコノシロであれば、ぜひ酢締めで食べてみてほしい。一旦しっかり塩を浸透させること、たっぷりのツンとしない酢で塩を抜きつつ酢を浸透させる。一晩寝かせればやがて浸透圧が仕事をしてちょうどいい塩梅になるだろう。これだけ気を付ければ、そこまで神経質にならずともおいしく仕上がると思う。

先日「丸寿司」という、酢で味付けしたおからをカタクチイワシの酢締めでくるんだ郷土料理をいただく機会があった。個人的にはかなり好きな味だったので、おからが手に入ったら一度コノシロでやってみようかと思う。

ぶっちゃけ光物が好きな人にとっては食味はチヌより全然上だと思う。ぜひお試しを。

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